「あにめたまご2020」若手育成講座第2回2日目開催
皆様、こんにちは!あにめたまご広報担当のKです。
平成31年度 文化庁委託事業 若手アニメーター等人材育成事業「あにめたまご2020」若手育成講座の第2回、2日目を9月19日に実施しましたのでご報告いたします。


■講座1「伝える演技講座」

この日は株式会社テレコムアニメーションフィルム所属のアニメーターである富沢信雄氏による伝える演技講座からスタートしました。富沢講師はまず、動きの中にあるポーズを見つけ出す手がかりになるサムネイルの作成を提案します。そして実際にサムネイルを描いてみる段階に移ると「男の子が垂直跳びをしている様子を描いてみましょう」とお題を発表。若手アニメーターたちは実際に垂直跳びを繰り返して動きのイメージを掴んでいきます。

こうして出揃ったサムネイルは実際に壁に貼りだされ投票が行われました。票が集まるサムネイルもいくつかありましたが、それらに共通していたのが、動きが流れている、ポーズがはっきり描かれているもの。富沢氏の講評でも「跳ぶ前のかがみこみ、壁にタッチする前の準備動作、壁にタッチした後のフォロー動作、着地時の姿勢などが描かれているといいでしょう」とアドバイスもありました。

ちなみにサムネイルを描く際のポイントは「始め」「終わり」「途中」の3ポーズを描き、そこからその間にあるポーズを描いていくこと。さらに違うなと思っても、消さずに(×などをつけて)残しておくのがいいとのこと。各自が描いたサムネイルにアドバイスをもらった若手アニメーターたちは、続けて「箱を覗いた男の子が、びっくりしてひっくり返る」という原画の制作に取り掛かります。もちろん、原画を描く前にしっかりとサムネイルを作るという前提です。


数十分後、若手アニメーターたちによって描かれた原画は、プロジェクト運営委員 調査・研究チームの布山タルト氏、東京藝術大学助教授の面高さやか氏の指導によりコマ撮りアニメーションのソフト「KOMA KOMA for iPad」に取り込まれ、動画データに変換されていきます。やがて全員の動画が集まると上映会がスタート。上映会は自らが描いた原画に声を当てながらの発表となりました。

全参加者の上映会が終わると最後に富沢さんから「驚くポーズは皆さん描けると思います。今回のポイントはのぞき込む姿と倒れる姿。のぞき込む姿は箱に顔を近づけている絵が、倒れる姿はバランスを崩してこれでは倒れてしまう、と感じさせる姿を描ければより良い絵になるかと思います」とのアドバイスも送られました。



■講座2「シアターゲーム2」

8月の講座でも開催されたシアターゲームがこの日の講座にも組まれています。講師は演劇集団円女優/トリッピー表現力教室代表の大門真紀さんです。

大門さんはまずは腹式呼吸を意識させつつ若手アニメーターたちの体をリラックスさせると、前回のシアターゲームでも挑戦した手拍子を隣の人に伝えていくエクササイズを再度提案し、相手に自分の気持ちを伝えていくゲームを繰り返します。

さらに全員が輪になって目があった人と入れ替わるゲーム、二人一組となって共通点を見つけるゲーム、6人組でありえない水を売り込むための架空ブレスト会議、そして2班に分かれてのありえない縄での空想大縄跳びと、人数を増やしながら「相手に自分の気持ちを伝えるには?」を実際に体験していく参加者たち。相手に伝わったと思ってもズレている、こうすれば気持ちが伝わりやすい、など具体的な感覚を身を持って体験していきます。

この「思いを伝える」テクニックはアニメを制作するにあたっても大切なファクターのひとつ。作画技術も大切ですが、こういった「どう表現すればより伝わるか?」を実体験できたことも大きな財産になることでしょう。ちなみに最後のエクササイズ「ありえない大縄跳び」は毎年恒例ゲームとなっていて、昨年は「刃物がついた縄」と「丸太の縄」というクリエイターらしいユニークなアイデアが出ましたが、今年も「残り一人になるまで絶対に止まらない縄」と「臭い縄」と独特な縄での大縄跳びが見られました。さすがはアニメーターたち、発想が柔らかい!

講座の最後に大門さんから「1時間半前に決めた“この講座に参加する際の心得”を思い出して、今感じている気持ちと見つめ合ってください。今日やったことはコミュニケーションの基礎。これからも自分の気持ちを相手にうまく伝えられるよう、この体験を思い出してみてください」とエールが送られました。


■講座3「伝えるポーズ講座」

シアターゲームで体を動かした若手アニメーターたちは、また新たな気持ちで座学に臨みます。ここでは日本アニメーション株式会社所属のアニメーターである佐藤好春氏を迎え、見た人に伝わるポーズを考えていきます。

佐藤講師は「先ほどの講座(シアターゲーム)で実体験した伝えるを、この時間で絵にしてみましょう。そして第三者に伝わる表現方法や構図を手に入れてください」と挨拶すると、最初のテーマとして大きな扉を開けようとして力いっぱい押しているポーズを1枚描かせます。

若手アニメーターたちは壁を扉に見立てて試してみては、最も効果的(に伝わる)と思われるポーズを探っていきます。もちろん富沢講師の講座で学んだように、時間の許す限りサムネイルを描いてみる作業も忘れてはいけません。こうして作画に取り掛かる若手アニメーターたちに「カメラ位置も重要です。そして思い切りよく描いてください」と声を掛けながら各机を巡る佐藤講師。描き上がった絵が壁に張り出されると「右足がもっと後ろにあったほうが力が入っている感じが伝わってくるよね」「支えているようにも見えますよね」とそれぞれの絵にアドバイス を送ります。


さらに次の課題として10kgの球を持ち上げる男の子を描く課題では「持ち上げようと力を入れている姿」と「球を持ち上げて、これから歩き出そうとしている姿」の2枚を指示。やはり「手の演技も意識してください」「腰にもっと力が入っていたらよくなるかも」「ボールと体の位置が少し問題ですね」「頭身が高いから男の子には見えなくなっちゃっています」と丁寧に講評。

最後は疲れ果てて椅子に座ったら、背もたれに寄りかかって眠ってしまった絵で総仕上げとなります。扉を押すのポーズ、球を持ち上げるポーズと、力を入れている姿を描いてきましたが、最後は力を抜いたポーズの作画。しかも前2作は佐藤講師からの講評がありましたが、椅子で寝ている姿は一人ひとり、どこにこだわって描いたのかを発表することになりました。それぞれのこだわりポイントに「よく描けていると思います」と笑顔を見せた佐藤講師は、最後に「仕事をしていく上で自分が持っているものしか出せません。なので皆さん、いろいろなことをやってみて観察を続けていってください」とアドバイスを送り講座は終了となりました。


■講座4「アニメーターの仕事講座」

この日最後のプログラムは瀬谷副委員長、後藤副委員長、今西隆志委員、佐藤広大委員の4者が壇上に立ち、若手アニメーターから寄せられた質問に答えていく「アニメーターのしごと講座」。

Q&Aは「レイアウトを描く際に気をつけることは?」「レンズの歪みをうまく描くには?」「パース感を身につけるには?」など技術的な回答からスタート。基本は各社の指導担当に任せているので詳細は省きますがと前置きしつつも、周りの人に話を聞くコツとして「先輩に話を聞きたかったら後輩が食らいつかなければ教えてくれません」と、待っているだけでは人は教えてくれない、積極的にコミュニケーションを取ってくださいと発破をかけます。この伝えることの大切さについては、この日の講座でしっかりと学んできましたので、若手アニメーターたちにとっては実感のあるアドバイスだったことでしょう。

続いて「一定のリズムで仕事をするためには?」との質問に、「私は時間目標を決めて作業に入ります。制限時間を決めておけば早く描く努力をするようになる」「線の長さ=スピード。線を多く描くより一発で決めた方が早いですよね」とそれぞれの考えを披露。さらに「自分で進行表を作る」などすぐにできる対応策も伝授してくれました。

中には「頭が固いのでアニメーターに向いていないのでしょうか?」という質問もありましたが、これには「柔らかすぎても困る。それに頭が固い=引き出しが少ないではない。アニメーターに限らずいろいろな人がいてもいい」と頭の固い柔らかいは関係なく、いかにして引き出しを増やしていくのかが大切だと答えてくれました。他にも「やる気のない時の仕事の消化方法は?」とリアルな質問には「この部分は勉強になるとか、この部分は楽しめるなど、その作業の中にひとつでいいので楽しいを見つけるのはどうか?」や「作業がどうしても嫌なときでもとにかく机の前に座って手を動かせば……、少しでも上がるんです」と答えてくれましたが、4氏とも実感が込もっていたように感じられました(笑)。

さらに「原画で自分の描いた絵や構図の方がいいと思うのに、リテイクが出た時の納得の仕方は?」というクリエイターらしい質問もありました。これには「監督や演出が求めた(作品の)色なのだから諦めて従う」と答えたかと思うと、一方で「監督を捕まえて議論するのもありといえばあり。自分が納得できたり理解できるまで話し合う」と、意見が分かれることも。ただしそこに共通していたのは「リテイクが出たからといっても、その相手を憎むことはしない方がいい」という心構えでした。若手アニメーターにとって理不尽だと感じた修正でも、リテイクを出した人なりの考えがあり、リテイクのたびに不平不満を溜め込んでしまったら精神的に弱ってしまうので、大事として考えない気持ちが大切だ、とアドバイスを送っていました。

さらに監督サイドからの意見としてと前置きがあり「あなたの絵が指示された絵よりいいとします。それはワンシーンとして、部分的にいいかもしれません。でも作品全体の流れで見ると逆にそこが浮いちゃうこともある。監督は作品を通しての仕上がりで見ているから、いい絵でもリテイクを出さざるを得ないこともあるんです」と異なる視点からの意見も。いい絵を描くことも大事ですが、監督がイメージしている完成図に当てはまる絵を描くことも大事なのですね。勉強になりました。

この質疑応答でこの日の講座は終了。若手育成講座も残すは10月に実施した2講座となりました。 最後までレポートをお届けしますので、よろしくお願いいたします
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