あにめたまご2018上映会・司会者インタビュー
2018.02.08

小林 今回、急遽プロデューサーの私も対談の輪の中に入るということで、大先輩のお二人を前に大変恐縮していますが、宜しくお願いします。

島本 《あにめたまご》に司会で協力をして欲しいという話を伺ってから、もう1年ぐらいたつんですね。

井上 今回の司会の話を聞いた時にね、女性の司会者は島本さんということで、じゃあ何も心配いらないなと思いました。

島本 私も同じこと考えたんですよ(笑)。ああ、和彦さんならもう全然大丈夫、嬉しい!って。

井上 一緒にできるっていうのが嬉しいよね。

島本 和彦さんとは過去、恋人役から始まって、夫婦役もすごく多いんですよ。ふたりとも生きているバージョン、片方が死んじゃってるバージョン、両方とも死んじゃうバージョン(笑)。

井上 (笑)どうしてだろうね、声質なのかな?同年代ということもあって、若いときからカップルの役が多いんですよ。だから今回も、このふたりなのかな?

島本 小林さん、そうなんですか?

小林 いえいえ(笑)。私、声優の永井一郎さんと文通させていただいた時期がありまして。「アニメ業界も声優業界もさまざまな課題がある中で、君が架け橋になってくれるかもしれないと思ってるんだよ。勝手にね。」とおっしゃったんです。あの時の言葉がずっと心に残っていて。《あにめたまご》のプロデューサーを務めることになった時、いくつもの難問というか、課題がありました。人材育成の成果物である4作品の発表をどのようにするかも課題だったのですが、日本のアニメを守り、育てていくためにも、まずはアニメーション制作の現場に広くこの事業を知って欲しい。それにはアニメーション制作のチームメンバーである声優さんにもこの事業の意図を理解してもらい、応援してもらいたいと思いました。そこで《あにめたまご》では、人を育てる事業ということもあり、声優さんでも育成に携わっている方に、完成披露上映会の司会をお願いさせていただいているんです。若手アニメーターの方にも毎年好評で「自分の絵に声をあててもらいたいから、これからも頑張りたい」とか、アニメーターを続ける上でのモチベーションアップにも繋がっているようです。今年は大先輩のお二人に応援していただけて、本当にありがとうございます!


井上 永井さんは僕の師匠なんですよ。まだ右も左もわからない18歳のとき、初めて永井さんから演技を教わったんです。永井さんも人に教えるのは初めてだったそうですけど、そのとき「こいつは化けるよ」と言われたんですね。

島本 えー!

井上 それでこちらも「よし、化けてやろうじゃないか!」と(笑)。永井さんってそういう風に人をやる気にさせてくれるのが本当にお上手な方でしたよね。その後も年月が経って現場などでお会いしても「上手くなったな」とかおっしゃっていただいて。

島本 私も永井さんから褒められたことがありました。『風の谷のナウシカ』で「腐海の底での台詞がとてもよかった」って。

井上 必要なんだよね。先輩からそういう風に言っていただけるとものすごく励みになるし、こちらも頑張ろうという気持ちになってくる。そして僕らも今は永井さんの立場になってきているんだなと考えますと……。僕が18歳で教わったとき、永井さんは43歳だったんですよ。島本 そんなにお若い頃から教えられてたんですね。

井上 そして当時の永井さんのお歳から20年も上になっているのに、今までちゃんとやってきているのかなと自問自答するときもあるんです。

島本 褒めてないんですか?

井上 いや、学校とかで褒めてますよ(笑)。

島本 じゃあ今は「井上和彦さんが師匠です」って人もいっぱいいらっしゃるわけね。

井上 そうですね。だからスタジオとかで偶然会ったりすると、こちらも嬉しいし、これからも世代を超えて認め合っていきたい。普通、どうしてもダメなところを言ってしまいがちじゃないですか。でも、僕はまず良いところを認めて、それからダメなところを指摘するほうがいいと思っています。特に最近はそういう風潮になってきている気もしますしね。世代的にも打たれ弱い人が多くなってきているし。僕らの時は打たれてナンボというか、打たれて這い上がってこいみたいなところがあったけど、その中でもやはり褒められたいという想いはありましたしね。特に今はまず認めてもらうことで自由にのびのびやることができて才能を開花させる時代になってきているのではないかなとも思います。


小林《あにめたまご》では、アニメ業界に入ってまだ数年の若手アニメーターたちに指導担当をつけ、現場でいろいろノウハウを教えながら30分弱ほどの短編を制作していただいています。ベテランも若手も同じ現場で、日中に働く。土日はちゃんと休むといったレギュレーションです。育成期間中は、4団体の若手を一同に集めて開催する5日間の若手育成講座も設けています。



島本 それはすごくいいことですよね。

井上 うらやましいくらいですよ。

島本 できれば新人の方々全員が受けられるようにしてもらいたいほどですよね。

井上 僕らはちょうど声優業界が「声優ジュニアを育てよう」という時代の最初の頃に属しているんですよ。でもキャリア3年くらいでは全然食っていくことはできなかったですね。もともと僕は対人恐怖症を治したくて永井さんの許で演技を教わり、そこから声優の勉強を本格的にさせていただくようになったのですが、25歳くらいまではバイトを3つくらい掛け持ちしてましたよ。

島本 私も『ナウシカ』の頃はまだバイトしてました。当時はなかなか食べていくのが大変でしたよ。

井上 バイト代が自給330円とかの時代でしたからね。

島本 私はもうちょっと率が良かったかな(笑)。


小林 お二方は今の若手声優の方々を見て、何か思われることなどありますか?

井上 一生懸命ではありますよ。ただ、その一生懸命さの感覚が、僕らと違うなというのはすごくありますね。

島本 え、どういう風に⁉

井上 たとえばバイトひとつとっても、僕らは稼げるだけ稼いで、余った時間を芝居やワークショップなどに費やすという感じでやってましたけど、今の子たちはここまでしかやらないといった区分けがちゃんとができていて、プライベートの時間とかもちゃんと確保してるんです。どことなくのんびりしてますよね。


島本 私も実は今、声優をめざす若い子たちに教える機会があるんですけど、「ゲームやってて遅刻しました」とか「疲れたので寝てました」とか、どうしてここに学びに来ているのか、一体自分は何をやりたいのかがわかっていないというか、とりあえず専門学校を出ておけば、あとは何とかデビューできるんじゃないか? みたいに、やはり呑気に構えている子が多い気もしています。まあ、デビューできればちゃんとやるでしょうけどね(笑)。

井上 僕の場合、そこから上がってきた子たちを教えてるんですけどね(笑)。ただ、僕が教え始めた20年ほど前ってまだそれほど専門学校とか確立してなかったので、それこそ一から教えてましたし、また本当に声優になりたいという子たちが集まってましたので、当時の人たちは今もしぶとく生き残ってますよね。でも最近は専門学校を卒業してこちらに来た人たちの癖を取るところから始まりますね。自分たちは良かれと思ってやってきたことが実は癖だらけなので、「え?ちゃんと芝居しようよ」と(笑)。でも一度ついた癖を取るのって結構大変で、特にやる気のある時期に教わったことってかなり刷り込まれるから、その後なかなか取れないんですよ。

島本 マニュアルに引っ張られ過ぎているのか、自分自身の素材が隠れてしまってる子も多いですね。たとえば女の子で可愛い声を出しても、みんな一緒に聞こえてしまうんです。ただ単に可愛い声を発するのではなく、やはり自分がどこにあるのかをちゃんと出していかないと、その人自身の個性が伸びないように思います。

井上 今、こういうものが受けるんじゃないかってものの真似だけしようとするから、こちらは面白くも何ともないんです。それよりも個性が際立つ人たちが集結して作りあげていった方が、絶対面白いものができるはずなんですよ。

島本 その意味ではみんな、ちゃんと自分を見つめてほしいですね。


井上 でも、僕らの若い頃はみんな下手だったから、その分自分をさらけ出してたんですよ。そこで個性が出ていたのかもしれない(笑)。

島本 それってよくわかる(笑)。

小林 その意味では、アニメーターにも個性は大事だと思うんです。基本ができている、監督らの要望を満たす物が上がるといった上での話ですが、自分で動きを想像する、演技を創るというクリエイティブな仕事なので。

井上 もちろんどの仕事でも、ある程度の基礎って絶対大事なんですよ。ただ、そこからのプラスαをどうするか。だから最低限のところは踏まえながら、その上で自分はこうしたいんだと。個性って、そういうところから育まれていくものだと思うんですよ。ただし、外れるのが個性ではない。そこを勘違いしちゃうととんでもないことになっちゃいますけどね。

島本 一歩間違えば欠点になるし、光れば個性と呼ばれる。そういうものだと思うんです。ちょっと他人とは違う声質をしている、喋り癖がある、そういうものが心地よく誰かの心を打てば、それは個性として活きると思いますけど、不愉快であったり不明瞭であったりしたら、それは個性ではなく、ただの悪い癖だから直していくべきでしょうね。

井上 そうだね。個性って「心地よい癖」ってことなのかもしれない。

島本 人とは違うってことも含めてね。


井上 ただ、アニメーターの人たちって、みんなが集まってひとつの作品を作りあげていく共同作業ですから、その中で個性を出すのって難しいことかもしれないですね。シーン毎にキャラクターの絵が変わってたらおかしいわけだし。その意味では、ひとつひとつの役に統一感をもたせた上で、アニメーター個々の個性を冒険的に盛り込んでいく。それはそれで大変なことかもしれないけど、実際に優れたアニメーターのみなさんはそれを実践なさってらっしゃるはずです。若手アニメーターの人たちも、ぜひそれを目指していただきたいですね。

島本 与えられたとき、何を求められているかがわからないまま、自分流のやりかただけでやってしまうと、いざ繋げてみたときにおかしなものになるとも思うので、やはり何を求められているかを踏まえた上で、自分らしさを少しずつ出してもらえるといいのではないかとも思います。

小林《あにめたまご2018》の4作品は、3月にみなさまにお披露目できる予定です。アフレコもフルカラーで行うことを絶対条件にしています。

井上 アフレコ時に絵ができていないと、オンエアを見た時に絵と芝居がかみ合ってないことが起こることがあるんですよね。アフレコ時に想定していた場所や表情が違っていたら、空気感も違いますし、当然芝居も変わってきますからね。かつてはアフレコまでに絵が出来ていたのが当たり前だったのに、今はオンエアまでに間に合えばいいんじゃないって雰囲気に業界全体がなってしまっているのか、でもそれがキャラクターに命を吹き込む僕らの作業に大きな影響を及ぼしてしまっているのが正直哀しいです。「パッケージを発売する時にはちゃんと直します」とか言われても、みんながみんなDVDとかのパッケージを買うわけではありませんし。それこそ僕らがスタジオで声を吹き込む段階がオンエアなんだ!といった気概で臨んでいただきたいんですよ。

小林 それと同じことを、永井さんもお手紙に書かれていらっしゃいました。現実問題として商業アニメーションの制作スケジュールでは難しい問題なのですが、この事業を通して日本のアニメーション業界が抱えている課題を提示していくことも、この事業で行うべきことだと思っています。この事業では大変多くのアニメーション業界の方が関わっていて、それぞれの立場で真剣に業界のことを考えていらっしゃいます。少しでも課題を打破する、そんな切っ掛けになればと思っています。

島本《あにめたまご》はちゃんと絵ができた上でアフレコできる。本来は当たり前のことでもあるのですが、嬉しいことでもありますよね。

井上 アフレコまでに絵が間に合うことで、アニメーターと声優がお互いを高め合うことにも繋がると思うんですよ。

小林 3月の完成披露上映会には、各制作会社の方々もいらっしゃいます。全国に配信もされますので、ぜひお二方からも、声優の立場から感じた業界へのメッセージを含め、いろいろ発信していただけたらありがたく思います。どうぞよろしくお願いいたします!


  • 井上和彦プロフィール
    B-Box所属
    代表作は『夏目友人帳』(ニャンコ先生/斑)、『NARUTO-ナルト-』(はたけカカシ)、『ジョジョの奇妙な冒険』(カーズ)、『サイボーグ009』(島村ジョー)、『美味しんぼ』(山岡士郎)など。
  • 島本須美プロフィール
    所属フリー
    代表作は『小公女セーラ』(セーラ)、『めぞん一刻』(音無響子)、『それいけ!アンパンマン』(しょくぱんまん)、『ルパン三世 カリオストロの城』(クラリス)、『風の谷のナウシカ』(ナウシカ)など。